2021年度 福島県に対する同友会からの提言
これまで36回の開催を重ねてきた県知事を囲む懇談会ですが、前年度に引き続き新型コロナウィルスの影響により開催を断念せざるを得ない状況となりました。来年度こそは直接対話のできる懇談会が開催できる事を願い、今年度も私たち同友会から県に対する「提言書」を提出させていただくことで、懇談会に代えさせていただきます。
日頃より、知事及び県のご担当の皆様には、私ども福島県中小企業家同友会(以下同友会)へのご理解・ご支援をいただき誠にありがとうございます。
新型コロナウィルス感染症による社会環境の激変から既に2年が過ぎました。私たち同友会では「中小企業における労使関係の見解」(労使見解)で「経営者である以上、いかに環境がきびしくとも。時代の変化に対応して、経営を維持し発展させる責任があります」と掲げている通り、こうした激変する環境にも素早く柔軟に対応し、社員と共に自社の存在意義を発揮させて企業の存続と雇用の維持、地域経済の持続に会員企業一社一社が全力で邁進して参りました。私たち中小企業が福島県で経営し続けることは、福島県の存続を担う重要な使命でもあると認識しています。
企業づくりの要として、自社の存在意義を明確にした「経営理念」を成文化し、10年後のワクワクする姿を描いた「10年ビジョン」を掲げ、それを社員と共有して、お客様のお役に立ち続ける企業経営を実践し続ける『経営指針の成文化とその実践』をめざしてきました。そうした魅力ある企業をつくり、新卒採用のための「共同求人」、生き生きと働くことができる自立型社員をめざした「社員共育」などを通して、社員が輝きお客様に喜ばれ地域に無くてはならない会社であり続けたいと考えています。
とはいえ、2年以上にも渡って長引き、さらにこの先も続くであろう新型コロナウィルスによる経営への影響は、私たちが掲げる自助努力だけで乗り越えることは困難です。県を始めとした行政の皆さん、そして地域の皆さんと共に、お客様のお役に立ち続けるために、手を携えていくことが必要です。
「地域を経営する」視点から、各地域のあるべき姿を掲げ、現状を分析し、具体的な行動計画を立てて目標に向かって地域の皆さんと共に行動していたくめにも、これまで以上に「中小企業振興基本条例」とその理念を具現化していことが重要だと考えます。
今年度も私たち同友会として、より良い福島県を築いていくための提言をまとめました。これまでの提言の中でも、趣旨を汲み取っていただき具体的な施策に反映いただいた事もあり、感謝申し上げます。私どもの不勉強で行政のしくみや政策などに関する理解が十分でないところも多々あろうかとも存じますが、その点はご容赦いただき、当面の課題を克服すると共に、私たち中小企業家をはじめとした地域の皆さんが主体者として「福島県の未来を創っていく!」という立場からの提案として受け止めていただければ幸いです。
2022(令和4)年3月25日
福島県中小企業家同友会
会長 藤田 光夫
福島県中小企業家同友会の概要 2022(令和4)年3月1日現在
■創立 1977年(昭和52年)2月11日(創立時会員46名)
■代表者 会長 藤田 光夫 藤田建設工業(株) 取締役会長
■本部事務局 〒963-8005郡山市清水台1丁目3番8号郡山商工会議所会館5階
TEL024-934-3190 FAX024-934-3089
■会員数 1,855名
郡山支部 (494)名、福島支部(396)名、あだたら地区(52)名、
須賀川地区(36)名、会津地区(222)名、相双地区(91)名、
白河地区(146)名、いわき地区(325)名、田村地区(59)名、
喜多方地区(34)名、
同友会 三つの目的
①会員の経験と知識を交流し、企業の自主的近代化と強靱な経営体質をつくろう。
②相互に人格を高め、知識を吸収し、これからの経営者に要求される総合的な能力を身につけよう。
③中小企業をとりまく経済環境を改善し、中小企業の経営を守り安定させよう。
○提言1中小企業・小規模企業振興基本条例を改正し、中小企業の実態を知り、意見を聴くための「振興会議」の設置を盛り込む
福島県は、2006年に都道府県では全国4番目に「中小企業及び小規模企業振興基本条例」が制定されました。全国に先駆けて制定されたこの条例をもとに、PDCAサイクルを回しながら具体的な中小企業振興策が展開される事をたいへん期待しております。
この度の新型コロナウィルス感染症の拡大など、経験した事の無い事象が企業経営に襲いかかった場合には、機敏にかつ柔軟な対応が不可欠です。こうした新たな課題に直面した時ほど、その最前線で奮闘している中小企業経営の現場の声を聞き、実態を的確に把握し、さらにその解決・改善への様々なアイデアを出し合うことが求められるのではないでしょうか。現在までのコロナ禍の状況においても、こうした条例の精神を生かした情報交換や意見交換の場面が設けられたことは無かったように思います。
わたくしどもは、かねてからこうした具体的な情報交換・意見交換のしくみづくりを繰り返し提言させていただきました。県からは「様々な機会を通じて、中小企業の現状や課題等の実態把握に取り組んでまいります」とのご回答も重ねていただいております。今こそ是非とも目に見える形で、従来の枠組みにとどまるだけではなく、少しでも地元中小企業の実態に基づいた施策が展開され、環境の変化に負けない元気な地元中小企業がより多くに広がっていくよう、次の点を提案致します。
1)現在の中小企業・小規模企業振興基本条例に定められている「福島県中小企業振興審議会」とは別に、「中小企業者、小規模事業者、中小企業団体等から経営実態を聴取し、中小企業振興の施策への意見を聴取するための『中小企業振興会議』を設置する」ことを定めた条例に改正すること。この振興会議では日当等の費用は発生させず、中小企業の経営実態やその改善策についての前向きで自由な意見交換の場とすること。
2)「福島県中小企業振興審議会」も、単なる施策の説明・承認の場としてではなく、県内の中小企業経営の実態を把握し、その改善のための意見交換ができる場とすること。さらに審議委員に私たち同友会も加えていただくこと。
中小企業振興審議会は、同条例9条の3で「基本計画を策定し又は見直しをするに当たっては。福島県中小企業振興審議会の意見を聞かなければならない」と定めてあり、基本計画以外の中小企業振興に関する意見聴取の場が設けれていません。これは、同条例第3条の5「中小企業・小規模企業の振興は、県、市町村、中小企業・小規模企業、中小企業・小規模企業団体、金融機関、県民及びその他関係する団体が参加し、連携し、及び協力することにより推進されなければならない」と定められていることに対しては不十分であると考えます。
審議会そのものをより活発な議論の場とすることは勿論、基本計画以外の中小企業振興策を具体的に議論する場としての振興会議の設置が是非とも必要だと考えます。
○提言2 福島県が人材の宝庫となるために、地域の中小企業が協力して子供たちへの勤労観・職業観教育を実施する
中小企業にとっては、採用に関して大変厳しい状況が続いています。大企業の占める割合は全国で0.3%、東京都では1.1%に対して福島県では0.1%となっていて、福島県の企業は圧倒的に中小企業が占めています。こうした状況にも関わらず、県内の子供たちにとって中小企業は身近な存在としての認識ではないのが現状だと思います。
企業にとって社員は宝です。私たち同友会では「社員はもっとも信頼できるパートナー」(中小企業における労使関係の見解)と考え、共に育ちあう(共育)人間関係の構築を目指してきました。こうした考え方のもとで会員各社では、社員が安心して働くことができる労働環境を構築していく努力を進め、より一層魅力ある企業づくりに力を注いでいます。
また、人口10万人当たりの大学数は、東京都が5.53(全国2位)であるのに対し福島県が0.82(全国第46位)となっています。関東圏にも比較的近いという地理的要因も相まって、大学進学で福島県を離れざるを得ない状況にあることも事実です。
こうした中で考えられるのは、近視眼的に「福島県から人材を出さない」という発想ではなく、基礎教育として勤労観・職業観を育む一方で、仮に進学等で県外に出ていった場合でも、その後のライフスタイルの中で、福島県に戻って活躍できる環境をつくっていくこと、あるいはさらに積極的に他地域からの人材が「働きたくなる」福島県にしていくことも大切ではないでしょうか。実際に福島県はU・Iターンのデータ「移住したい県ランキング」や若者意識調査では「残りたい故郷ランキング」の上位に位置しています。
小さな時から「働くこと」や「地域にある企業のこと」を体系的に学んで勤労観・職業観を育むと共に、地域の中小企業の存在と役割も知りながら世界にも目を向け、それぞれの個性に応じたフィールドを見つけて活躍していく多様な人材を育む「人材の宝庫」である福島県となるよう、提言致します。
1)基礎的な学力や人間力を広げ、将来「働くこと」への希望を持てる勤労観を育み、地元の中小企業の存在と役割を学ぶ場を積極的に設けていくこと。そのために地元企業として必要な役割…職業講話の講師派遣、職場体験学習の受入れなど…は同友会など企業側の地域ネットワークも活用すること。
特に高校の進路指導にあたっては、単に卒業後に進学か就職か、といった目先だけの進路の選択にとらわれず、「大人になる=働く=社会の役に立つ」事への理解を深め、その選択肢の一つとして地元中小企業もあるということを伝えること。
2)福島県で働く人材の確保については、卒業後すぐの就職だけでなく、一定程度経験を積んでからの移動にも目を向け、福島県の魅力の一つとして「元気に働くことができる中小企業の存在」を広くアピールしていくこと。
3)こうした幅広い勤労観・職業観教育や県内中小企業の魅力の発信を行っていくために、行政・教育・企業・父母が一堂に会して「福島県らしい」勤労観教育のためのしくみづくりの可能性を討議する「キャリア教育振興会議」を創設し、人口減少に負けない福島の人材育成を実現するために自由闊達なアイデアを出し合う場とすること。
○提言3福島県として地元中小企業のデータベースを作成し、様々な企業力アップのために活用する
県内の中小企業についての情報は、市町村、商工会議所や商工会などの経済団体などがそれぞれ独自に持っています。これまでに無かった新しい物品の購入を考えたり企業マッチングのための情報収集をする場合に、県内を網羅した包括的な企業情報をもとに独自で探すことはできません。
折しも国の施策としてのDXが強力に推進されている時代です。個別の連絡や相談機関系の相談など具体的な動きに入るためには、ヒューマンな関係性が不可欠ですが、その前段階の情報収集には、信頼できる県内の企業情報を収集できるようになればたいへんスムーズです。
東京都墨田区では、事業所の実態調査を行い、その情報を活かし、モノづくりの町として今では世界に向けて発信をしています。
福島県でも地元企業情報のデータベースを構築し、希望する企業についてはその情報を公開して取引の活性化や企業間マッチング等につなげると共に、それをもとにして経営実態の把握、事業承継のサポート、求人を通しての人材確保などにも活用していくことを提案致します。
○提言4中小企業の育成を図り、企業力の底上げを進めていくという視点に立って、地域内での経済循環を向上させ、地元企業の企業力アップに向けての取り組みを進める
先に提言した「地域経済循環の向上」という課題に対し、中小企業振興審議会で勉強会を開催していただくなど、具体的な動きを進めていただいたことに感謝申し上げます。
地元企業にできることは地元企業に、という原則が定着してきた一方で、「地元企業にできること」の範囲を広げていく必要性も感じるところです。
私たち地元中小企業としては、現状に満足せず、常にレベルアップを積み重ねていきたいと考えています。そうした「できること」を広げていく企業力アップへの各社の努力を一層進めていくことは勿論ですが、その一方で「経験したことが無い」ことは、「経験しなければ永遠に経験できないまま」です。
「地元企業にできること」の幅を広げていき、経験値を高め、技術や商品力のアップを図るためにも、大規模な事業についても、例えばJVによって地元企業の参加も図りながら実績をつくり、企業力アップを図っていくといったことによる「地元企業の育成」も大切ではないでしょうか。
たとえ大規模な発注であっても、従来の実績だけに目を向けるのではなく、地元企業でも挑戦できるように後押しをし、またその多くを受注している大企業に対してもJV等を通して地元企業と連携して県内企業の底上げを図るよう促すことを提案致します。