いま、この人 8月号

阿部 涼さん あべ果樹園

 何と2ヶ月連続で表紙は果樹園さん特集。今回は白河支部より「あべ果樹園」阿部涼さんをご紹介します。

幼少期と家業への道

阿部さんは福島県白河市で梨の生産・販売を専門とするあべ果樹園の代表を務めています。幼い頃から祖父が営む梨園が家の周りにあるのが当たり前の環境で育ちましたが、当初は自分が梨作りを継ぐことを強く意識していたわけではありませんでした。高校卒業の頃、祖父が梨園を引退するという話を聞き、「なんとなく」自分がやってみようかという気持ちで家業を継ぐことを決めました。

苦労と転機

 梨農家としての道を歩み始めてから約8年、阿部さんはさまざまな困難に直面しました。特に2021年の春、霜と雹の被害を受けたことが大きな転機となりました。それまで「梨作りはそんなに難しくない」という個人的な思い込みがありましたが、この自然災害をきっかけに、自然と向き合う仕事の厳しさや、栽培・販売の難しさを初めて実感したと言います

梨への思いの変化

 家業を継いだ当初は、梨に対して特別な愛情はなく、「なんとなく畑に行く日々」が続いていました。しかし、2021年の霜と雹の被害を受け、初めて自分で直接お客様に販売する経験をしたことで、梨に対する思いが大きく変わりました。
 生産者として「一番梨の美味しいタイミングを知っているのは自分たち」という自負が芽生え、梨作りが「仕事というよりも、自分の楽しみや生活の一部」になったと語ります。
 梨の一年ごとのサイクルについて、最終的な目的は種を作ることであるとしつつ、「例えば50年収穫できるとしても
50回しか収穫できない。一年一年がやはり重要」と語り、梨を「自分の子どもみたいな存在」と感じています。今では、始めた頃とは比べものにならないほど、梨の畑に行くこと自体が楽しみになっていると言います。

経営者としての学びと成長

 阿部さんは福島県中小企業家同友会に入会して約2年になります。入会のきっかけは、㈱共和建商の増子国安社長(現・白河支部長)からの紹介で、「経営の勉強をしたい」という想いからでした。農業の世界では経営を学ぶ機会が少なく、同友会で他の経営者の話を聞く中で、経営者のあり方を学び、経営指針の重要性を実感しました。自身は「農業ということで、経営のことは本当に知らなかった」と率直に語り、今後は同友会のメンバーから学びながら、経営というものをもう一度見直し、自分の会社をより良くしていきたいという意欲を見せています。

今後の展望と願い

 阿部さんは近い将来、法人化を検討しており、若い経営者として長いキャリアのスタート地点に立っています。農業界は後継者不足で衰退が懸念される中、阿部さん自身も「教わる環境がなかなか無かった」と感じていましたが、昨年「梨の会」を立ち上げ、指導や育成の仕組み作りに取り組んでいます。今後は「梨が好きな人を育てていきたい」という思いが強いと言います。また、農家はお客様と直接つながる機会が少なかったのですが、「農家になりたい」と思う人が増えてほしい、また「作られる過程」をお客様に伝えたいという想いから、インスタグラムなどで積極的に発信しています。「お客様にとっても近い存在でありたい」というのが、阿部さんの今一番の願いです。