いま、この人 震災15年 特別座談会

福島県中小企業家同友会 相双地区(現・相双支部)が、東日本大震災および原発事故から2年後の2013年に発刊した震災記録集『逆境に立ち向かう企業家たち』。全域が避難区域に指定されるという未曾有の困難な状況下において、地域復興の担い手として会員企業85社が果たした役割や、具体的な実践事例が克明に綴られています。震災から15年という節目を迎えた今回、同書にその足跡を刻んだ4名の経営者が再び集結しました。当時の壮絶な経験を振り返りつつ、この15年で遂げた「変革」と、未来への「展望」を語り合った貴重な対談の模様をお届けします。

佐藤:まずは自己紹介を兼ねて、震災から15年を振り返り、当時から現在に至るまでをお教えください。

獺庭:震災当時、弊社は個人事業としてギフトショップを営んでいましたが、震災直後に全ての仕事がキャンセルとなり、経営は危機的な状況に陥りました。そんな中で支えになったのが同友会のつながりでした。震災前から同友会でのご縁で始めていた北洋舎クリーニングさんの取次業務に加え、震災後は宅配部門全般も委託いただくことになり、これが事業継続の大きな支えとなりました。現在ではこのクリーニング事業が弊社の主力となっています。当初はギフト店に併設していましたが、今ではクリーニング専門店を構えるまでになり、「フレスコ・キクチ山下駅前店」の取次店運営も引き継がせていただくなど、ご縁の中で事業を広げてきました。一方で、事業拡大に伴い家族経営から会社組織へと移行する中で、パート社員との関係づくりやマネジメントなど新たな課題にも直面しており、同友会での学びを頼りに試行錯誤を続けています。相馬市の復興はハード面では大きく進み、今後はソフト面の充実や社会課題への対応が重要になると感じています。現在の相馬は、他地域と同じスタートラインに立ち、課題に向き合う段階に入っていると思います。

井上: 弊社は乳業を営んでおり、原発事故の影響は計り知れないものでした。震災の年から3期連続で1億円規模の赤字を出し、倒産寸前の中で、半ば「社長にならざるを得ない」形で就任しました。そんな中でも会社が今日まで続いているのは、間違いなく同友会のおかげです。就任当時、何をすべきか分からなかった私に、「わからないなら『経営指針を創る会』へ」と美加子さんが、背中を押してくれました。必死に学びながら作った経営指針が、自分にとっての「ブレない軸」になりました。どんな状況でも立ち返る場所があることは本当に大きかったです。経営指針では「従業員を大事にすること」を最も重要な柱に据えました。当時はOEM依存度が90%を超えていましたが、「従業員を守る」という軸で改革を進め、現在は取引先を約6社まで広げることができました。正直「早く社長を辞めたい(笑)」と思うこともありますが、それでも踏ん張れたのは守るべき従業員と指針があったからです。理想を大きく掲げるより、まずは人を大事にし、「頼りになる会社」であり続けたい。それが地域の未来につながれば本望です。

高橋: 相双地区会長に就任した直後に震災が発生し、仲間に支えられながら2期4年間を走り抜けました。極限状態の中で支えになったのは、自ら作り上げた「経営指針」でした。そこには親から教わった、「技術で信頼されること」「人を大事にすること」という商売の原点がありました。避難指示で競合も従業員もいなくなる中、地域で唯一クリーニングを続けられたことで、この仕事が暮らしに欠かせないものだと改めて実感しました。震災後は、技術と品質を守りながら社内改革にも取り組みました。転機となったのは「ファシリテーション」との出会いです。社員が人生を語り合える場をつくり、会社を「自分事」として考えられる組織づくりを進めました。その結果、社内は驚くほど明るく変化し、自走する組織へと成長していきました。私が75歳で社長交代できたのも、社員たちの成長があったからです。今は「口はチャック、手は後ろに縛って」と言われながら(笑)、皆の成長を見守っています。震災を通して、多くの人に支えられ、生かされている幸せを改めて感じています。

菊地: 震災を経験して強く感じたのは、「当たり前の日常」がどれほど幸せだったかということです。同友会で震災記録集、85名の会員による『逆境に立ち向かう企業家たち』を編纂した際にも、地域に必要な仕事を担う仲間たちと支え合い、この地域を守っていかなければならないと改めて感じました。
原発事故で弊社も店舗閉鎖と不透明な状況に追い込まれましたが、「能力があれば他の場所でも通用する」と考え、震災2か月後には宮城県での出店を決断しました。社員やその家族が安心して働き続けられる場所をつくることが、経営者の役割だと思っていたからです。現在、スーパー事業の売上は289億円となり、今期中には300億円達成を見込んでいます。ここまで来られたのは、社員や地域の皆さんの支えがあったからです。私は10年前に現場を退き、違う立場となっても「地域の方々が安心して暮らせる提案をする」という思いが変わっていません。
南相馬は全国に先駆けて深刻な人手不足に直面した「課題先進地域」でもありました。だからこそ、私たちは変化への向き合い方を学んできた地域だと思います。これからも変化を恐れず、地域とともに歩んでいきたいですね。

佐藤:この15年の間に、自社・地域・同友会の中で新たに生まれてきた課題や、壮絶なご経験をされた皆様だからこそ言える、同友会活動のあり方や展望をお聞かせください。

獺庭: 相馬地域では高等教育機関が少なく、多くの若者が進学を機に地域を離れます。だからこそ、高校生までの時期に地域の大人が関わり、「体験学習」に加え、「探究授業」など新しい取り組みを通じて、地域課題に向き合う機会が重要です。一度は外の世界へ出て行ったとしても、外で学んだ経験を将来地域に還元したいと思える、地域を愛する心を育み、次世代が主体的に「自分事」として地域に関われるような、そんなきっかけを作れる会社でありたい。同友会の一員として、そんな関わりを継続していきたいと考えています。

井上: 私たちは震災やコロナ禍など、多くの困難を乗り越えてきた自負があります。「何があっても、なんとかなる」という強靭さが、私たちの強みだと思っています。人口減少が進む今だからこそ、私は「強靭な人を育てること」に力を入れたい。「福島や相双に来れば、人として成長できる」。そんな地域にしたいですね。同友会は本当に「人使いが荒い」組織ですが(笑)、私も今、政策提言委員長という大役を担わされています。福島県、そして相双支部には個性豊かで強い経営者が多く、その力をさらに高めていくことが私の役割だと感じています。任期中に取り組みたいのは、行政と民間の力をしっかりとつなぐことです。行政と力を融合させることで、地域をさらに強靭なものにしていきたい。根底にあるのは地域への愛着です。地域に根ざす企業として、地域の維持と発展に貢献していきたい。個性の強い仲間たちと共に、楽しみながら進んでいきたいと思っています。

高橋: 震災から15年が経ち、経営者はそれぞれ自社経営に向き合うようになりましたが、一方で同友会としての「連帯」の意識は少し薄くなってきているように感じます。今はAIやDXの時代で、個人で学べる便利な社会になりましたが、だからこそ地域や仲間と支え合う「連帯」が大切だと思うんです。同友会には、もっと広く学び合える場であってほしいですね。
 また、今の20代、30代は価値観や働き方の感覚も私たち世代とは大きく違います。「教えてやる」ではなく、若い世代の感覚を理解し、生かせる職場づくりが必要だと思います。経営者自身も柔らかく変化しながら学び合う、そんな場に同友会も変わっていく時期ではないかと感じています。

菊地: 同友会の本来の価値は、困ったときに「困っています」と素直に声を上げられることだと思います。経営の悩みは尽きませんが、仲間に相談すれば「それなら協力できるよ」と手を差し伸べてもらえる。さらに、中同協を通じて国への政策提言にもつなげていける。異なる立場の経営者が知恵を出し合えることが、この会の大きな魅力です。
震災のときには、県同友会の理事長たちが一軒一軒を回り、支えてくれました。事務局が届けてくれた情報や制度の知識も、大きな支えでした。今は制度や経営環境が大きく変わる時代だからこそ、会員に役立つ生の情報を届け続ける役割が、これまで以上に求められていると感じます。
事務局もまた重要な存在です。当時、現事務局長の佐藤さんが一軒ずつ安否確認に回り、その温かな人柄で会員の本音や困りごとを引き出してくれました。こうした泥臭いつながりこそが同友会の原点です。今こそ、私たちが本当にやるべき仕事は何かを見つめ直し、自社、そして同友会の役割を再定義する絶好のタイミングではないでしょうか。

高橋:この震災記録集(『逆境に立ち向かう企業家たち』)に刻まれた、一人ひとりの小見出しを眺めるだけでも、そのタイトルを繋ぎ合わせれば一つの強固な「芯」が出来上がります。そこに並んでいるのは、単なる報告ではなく、経営者たちの「心の叫び」が凝縮された、いわば魂のポエムです。今回、この座談会のお話をいただいた時、もしこの85人分の言葉をただ実直に羅列したとしたら、そこから一体どのような真実が見えてくるだろうか。そんなことを、改めて強く感じました。

佐藤: 郡山に住む私は、津波や原発事故の惨状を直接体験したわけではありません。映像では見ていても、その場にいた当事者ではないという思いから、皆様とどう向き合うべきか悩んできました。しかし今回、震災記録集『逆境に立ち向かう企業家たち』を改めて拝読し、会員お一人おひとりの切実な想いや生の声に触れることができました。そして今日、4人の皆様とお会いし、その朗らかな笑顔を拝見して、これこそが今の相双支部、そしてこの地で踏ん張る経営者の皆様の「真の姿」なのだと強く感じました。これからも同友会を盛り上げ、地域に根ざしながら、人々に希望を届ける存在として、皆様の会社が継続・発展されることを心より願っております。

菊地 逸夫さん
相双支部 理事・顧問/フレスコ㈱ 相談役/㈱マークスホールディングス 代表取締役社長:東北の地場大手スーパー4社の仕入れと経営改善を束ねる司令塔

高橋 美加子さん
相双支部 理事・顧問/㈱北洋舎クリーニング 取締役会長 2022年に事業承継を行い、現在は後進を見守る。様々な市民団体にも積極関与

井上 禄也さん
相双支部 副支部長/松永牛乳㈱ 代表取締役社長 南相馬市で乳製品・アイス製造販売。魅惑のソウルフード「手造りアイスまんじゅう」が有名。県同友会政策提言委員長。

獺庭 大輔さん
相双支部 理事/㈱紀の国屋 代表取締役 ギフト小売・クリーニング取次店。現在は、相馬市議会議員も務める(二期目)

【コーディネーター】
佐藤 光一 さん
県広報報道委員長/郡山支部
クレリア 代表